【洪水の話】
台風18号による洪水から10日。
被害を被った近所もようやく落ち着いてきました。
今回は洪水つながりで、世界一有名な洪水のお話です。
その洪水はユダヤ教の聖典旧約聖書の創世記に「大洪水」と記されています。
有名なノアの箱舟の物語です。
普通の洪水はflood(流れる)ですが、この大洪水は特別に「Flood」と大文字で書かれて区別されます。
またアダムからノアまでを大洪水以前とする区切りにもなっています。
ユダヤの神が良き者(ノアの一家)以外を一掃すべく起こした大洪水。
現代ならゲーム脳と揶揄されそうなリセットぶりです。
そしてこの神話の原型はメソポタミアにあります。
いま流行のパク…リスペクトです。
20世紀前半に、現在のイラクにある古代スメリアの都市ウルを発掘調査したところ、紀元前2800年ころに大洪水が起きた形跡が発見されました。
計算では深さ7.5メートル、長さ90km、幅30kmの範囲が泥水に沈んだとされるほど大規模なものでした。
これはチグリス川とユーフラテス川にはさまれた文明的な土地のほぼ全域に相当します。
当時ウルはメソポタミアの中心都市でシュメール人世界の中心でした。
文字通り「世界が水に沈んだ」のです。
この大洪水は世界最古の叙事詩に記されています。
ウト・ナピシュティムという人物が巨大な船を作ってギルガメッシュ王を大洪水から救い、大洪水後に神々に供物を捧げて喜ばせたとあります。
叙事詩は全く根拠のない作り話ではなかったのです。
この叙事詩と同様にノアも箱舟を作り、大洪水を生き延び、神に感謝の生贄を捧げています。
あまりに酷似しているので多くの歴史家は神話は叙事詩に由来すると考えています。
ユダヤの聖典旧約聖書にはこういった他民族の伝承・神話のエピソードがいくつも含まれています。
旧約聖書の成立にメソポタミアが強く関係しているからです。
史実の大洪水から時は流れて紀元前587年。
メソポタミアの都市バビロンはシュメール人からカルデア人に住人が変わり、ネブカドレザルⅡ世の統治のもとで最盛期を迎えていました。
世界の七不思議のひとつバビロンの空中庭園が造られたのもこの時代です。
そのネブカドレザルⅡ世はユダヤの都市エルサレムを滅ぼし、そこの指導者たちをバビロンに流刑にしました。
バビロンの捕囚となったユダヤ人。しかし弾圧されることもなく、大都市バビロンで羽振り良く暮らしていました。
相当居心地が良かったらしく、後にバビロンを征服したペルシャ人のキュロス大王がユダヤ人を解放したときも、ごく一部しか故郷エルサレムに戻らず、大部分はそのまま1500年もこの地に留まったほどです。
宗教の自由も認められておりユダヤの神も生き残りました。
自由なバビロンの文化に惹かれていた予言者エゼキエルは、バビロンの伝説をいくつか取り入れてユダヤの伝説や歴史を綴り、聖書の原型ができました。
こうした理由で旧約聖書の中にバビロンの伝説をユダヤ風にアレンジしたエピソードが発見できるのです。
カッコイイじゃん!というミーハーな動機でびっくりです。
しかし聖書に取り入れられなければ4800年前の大洪水は叙事詩の1エピソードとして歴史に埋もれていたことでしょう。
世界一有名な大洪水の伝説はこうして誕生しました。
近年発生した大災害も、今後何らかの理由で文明が衰退したら、その引き金となった天罰として新しく聖書に記されるかも知れませんね。
増渕 一成 (鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師)
栃木県鹿沼市出身
趣味は読書、熱帯魚、落語鑑賞。
活法研究会の提唱する碓井流活法(整体)と整動鍼法を施術の2柱としている。
活法研究会会員。
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